【3月3日 AFP】スイス・ローザンヌ(Lausanne)の大聖堂では毎晩、夜警が鐘楼の頂上に上り、仕事にかかる。15世紀から続いてきた伝統を守り、夜10時から午前2時までの毎時間、肉声で時を告げるのだ。

「こちらは夜警。鐘が10時を打ちました。鐘が10時を打ちました」。手を口に添えてメガホンのようにして、家々の上へ声を送る。毎時せりふは同じで、鐘の鳴る回数だけが変わる。欧州に残る最後の夜警の一人、マルコ・カラーラ(Marco Carrara)さんは、常勤の夜警が休みの日にこの仕事を引き受けている。

 一年中、大きな黒い帽子をかぶった夜警は深夜、ランタンを手に鐘楼の外へ足を踏み出し、レマン湖(Lake Geneva)のほとりにある絵のように美しいこの街の人々の人間時計として働く。1405年から毎晩、続けられてきた習慣だ。

■7つの街にだけ残る常勤の夜警

 かつて、夜警は極めて重要な役割を担っていた。中世の時代、建物が木造だった街にとって、火災は常につきまとう脅威だった。街頭を見回っていた見張り役のネットワークの中で、大聖堂の夜警は不可欠な存在だった。

 ローザンヌの常勤の夜警であるレナト・ホイスラー(Renato Haeusler)さん(60)によると、都会を火災から守る夜警は、欧州全土で数万人とはいわないまでも、数千人はいたという。しかし、かつて至るところにいた夜警は時代遅れの仕事となり、ほぼ姿を消してしまった。今や、ローザンヌの夜警が市内の火事を見張ることはない。

 今日では、欧州の伝統的な夜警を通年維持しているのは、ローザンヌを含めた7つの自治体──オーストリアのアンベルク(Annaberg)、ドイツのツェレ(Celle)とネルトリンゲン(Noerdlingen)、英国のリポン(Ripon)、ポーランドのクラクフ(Krakow)、スウェーデンのイースタッド(Ystad)だけだ。

■歴史をよみがえらせる

 ローザンヌでは、1950年に自動化されるまで、夜警は手動で鐘を鳴らして時を告げていた。

 2002年に常勤となるまで交代要員として14年間この仕事に就いていたホイスラーさんは、AFPに対し、夜警の役割にはもはや真の実用性はないと認めた。だが「(ローザンヌ)市はこの伝統を守ることに非常に熱心なのだ」と強調した。(c)AFP/Eloi ROUYER