【2月11日 AFP】ベトナム北部に暮らす少数民モン人の女性、タオ・ティ・バン(Thao Thi Van)さんの母親は、市場へ出かけたまま姿を消した──タオさんは当時、まだ2歳だった。母親は、モン人の女性を標的にする人身売買業者によって中国へと連れ去られ、そこで花嫁として売られたか売春宿に送られたとみられている。

 タオさんは13歳になった。行方不明となったままの母親の悲運にいまだとらわれているが、社会的に孤立した地域の女性を支援するための繊維協同組合にいくらかの慰めを見いだした。ここでタオさんは、高い技術を習得し、一目を置かれる存在となった。

 女性らはここで、麻のハンドバッグやテーブルランナー、コースター、動物のぬいぐるみなどを作り、1か月あたり170ドル(約1万9000円)ほどの賃金を手にすることができる。貧困にあえぐ北部ハザン(Ha Giang)省ではまずまずの金額だ。

 中国と国境を接するベトナム北部の人里離れた山岳地帯では、女性や少女が集落から姿を消すことは珍しくない。毎年、数千ものベトナム人女性がだまされて連れ去られたり、売られたりしているのだ。

 男性の数が女性を約3000万人上回っている中国では、「花嫁売買」が産業として成長を続けている。中には、自ら望んで中国に行く女性もいるが、その他は誘拐や強制結婚に追い込まれるケースだ。

 中国での強制結婚や性奴隷から逃れてくる女性も少数ながらいる。しかし、そうした幸運の持ち主も、祖国に帰れば恥辱を受け、集落から孤立してしまう。

 こうした犠牲者に生きる目的やきちんとした収入を与える必要性を感じたバン・ティ・マイ(Vang Thi Mai)さんは2001年、ルンタム・リネン協同組合(Lung Tam Linen Cooperative)を設立した。

■根深い差別

 協同組合は急速に成長し、現在では人身売買の犠牲者だけでなく、孤児やシングルマザー、高齢者まで130人以上の女性が働いている。

 農民として働いても月にわずかな収入しか得られず、性差別が根深いこの地域において、バンさんは自らが提供する仕事を通じて、モン人の女性に自信を与えられればと考えている。

 国境をまたいで行われる人身売買の一因はこうした貧困にある。そのため、収入を増やすことは潜在的犠牲者を減らし、そして女性らの社会的地位向上にもつながることになる。(c)AFP/Jenny Vaughan and Tran Thi Minh Ha