【1月23日 AFP】気候変動、大気や水質の汚染、生物多様性の損失、水危機、オゾン層破壊やその他の環境問題が幾重にも重なる世界では、ある領域の解決策が別の領域で問題を引き起こす可能性がある。

 ここでは、地球の「ゼロサム(一方の利益が他方の損失になり、全体としてはプラスマイナスゼロになる)」ジレンマと呼べるかもしれない状況の具体例をいくつか紹介する。

■水 vs 海洋汚染

 世界中に散在する1万6000か所以上の海水淡水化(脱塩)施設は、生産される真水よりはるかに多量の有害な汚染物質を発生させていることが、14日に発表された研究で初めて明らかになった。

 真水を1リットル抽出するごとに、塩分濃度が極めて高く、化学物質を多量に含む懸濁液(ブライン)1.5リットルがほとんどの場合、海洋に排出される。

 ブラインの年間発生量は、米フロリダ州を厚さ30センチの層で覆うのに十分なほどだ。

「海水淡水化技術は多くの人々に恩恵をもたらしてきた」と、国連大学(United Nations University)の研究者マンズール・カディル(Manzoor Qadir)氏は話す。「だが、ブラインの発生は見過ごすことはできない。今後さらに大きな問題に発展するからだ」

■オゾン vs 気候

 1987年に採択された「モントリオール議定書(Montreal Protocol)」は、成層圏のオゾンを分解する工業用化学物質の使用を禁止した。オゾン層は太陽の危険な紫外線から人間を守る。

 エアロゾルスプレー缶や冷蔵庫などで用いられていたオゾン層破壊分子が使用禁止となったため、科学者らはハイドロフルオロカーボン(HFC)類として知られる新たなカテゴリーの代替物質を開発した。

 だが、かなり後になるまで浮上しなかった小さな問題が一つあった。オゾン層に対しては無害のこの代替物質は、二酸化炭素(CO2)やメタンより数千倍強力で危険な温室効果ガスだったのだ。

 これにより、HFC類の段階的削減を求める改定案をめぐって長期に及ぶ一連の交渉が新たに始まり、最終的に2016年に改定案が採択された。

■バイオ燃料 vs 食料・森林

 1970年代の原油価格の高騰と、その後に浮上した気候変動の脅威により、トウモロコシ、サトウキビ、パーム油などを原料とするバイオ燃料の生産が拡大した。

 バイオ燃料は素晴らしいアイデアのように思われた。バイオ燃料を燃焼させる際に大気中に放出される温室効果ガスのCO2は、植物が成長する間に吸収されるCO2によって部分的に相殺されると考えられるからだ。

 だが、解決策それ自体が問題となった。

 植物由来燃料の変換や輸送に必要となるエネルギーによって、バイオ燃料本来の目的が損なわれてしまうのだ。さらに、新たな市場の台頭が、サトウキビやパーム油の木を栽培する農地を切り開くために、CO2の吸収効率がはるかに高い熱帯林を伐採するというねじれた動機を生み出したことが、問題をさらに深刻化させている。

 気候変動に関しては、人類がどのようにして地球温暖化による気温の上昇幅を2度未満に抑えるかの予測では、バイオ燃料が主要な役割を担うことを前提としている。だが、科学者らによる最近の推定によれば、そのための原料を栽培するのに、インドの最大2倍に及ぶ広さの土地が必要と考えられ、食用植物を育てるための十分な土地が残らなくなる可能性があるという。