【2月14日 CNS】中国・浙江省(Zhejiang)温州市(Wenzhou)泰順県(Taishun)に住む江雅金(Jiang Yajin)さんは1961年に生まれて以来、戸籍がなく、他人には想像つかない苦しみを味わってきた。

 江さんは、福建省(Fujian)建オウ市(Jian’ou)の小さな村に生まれた。当時、家には兄1人と姉3人がおり、5番目に生まれた子どもだった。「男を重んじ女を軽んじる」古い因習により、両親から危うく捨てられそうになった。出生から成人するまで、誰からも相手にされない状態が続いた。両親からは無視され、学校にも行けず、読み書きもできなかった。

「私は58年間生きてきたけど、戸籍など持ったことはないです」と江さんは言う。

 江さんは92年に夫と知り合い、1年の同居を経て、夫の本籍地である温州市(Wenzhou)泰順県(Taishun)の筱村鎮(Xiaocun)に移り2人で生活を始めた。

 戸籍がないために、江さんは社会保障を受けられず、まともな勉強や仕事の機会も得ることはなかった。旅行に行っても宿泊できず、電車など交通機関を利用することもできない。夫との婚姻証明も、手続きできないままだった。

 夫は、環境衛生の仕事を始め、江さんも一緒に働こうとしたが、これも無戸籍のためにかなわなかった。身分証明書や戸籍は小さなカードや薄っぺらい紙なのに、江さんにとっては永遠に越えられない大きな壁となり、戸籍を取得することが江さんの夢となった。

 江さんの窮状を知った村の警察官の潘德鋒(Pan Defeng)さんは、江さんのために八方手を尽くして調査を行い、江さんが生まれた原籍地である福建省建オウ市の吉陽(Jiyang)派出所を探し当てた。潘さんは、実地調査をすることを決心した。

 2018年10月23日早朝、潘さんはさまざまま書類などをリュックに詰め、同僚と共に400キロ離れた建オウ市に向かって出発した。江さんの親族や村幹部と面談し、江さんが確かに当地で生まれ、かつて生活をしていたことのある無戸籍者であると確認した。

 続いて、江さんのおじの案内でさらに2時間の道のりを走り、江さんの実家である山奥の下南坑村(Xianankeng)に移動。下南坑村では、潘さんらは村じゅうを歩きまわり、家々を訪問して戸籍の手続きに必要な資料を収集した。この日、潘さんらが走破した距離は900キロを超え、14時間を要した。「江さんがかわいそうだったからね。自分がこの仕事を引き受けた以上、全力でやってあげたいだけだよ」と潘さんは語った。

 年が明けて1月4日、江さんは夫とともに筱村派出所を訪れた。浙江省と福建省の2つの省をまたがる調査と申請を経て、作成されたばかりの新しい戸籍簿が、58年もの間「無戸籍者」だった江さんに手渡されたのだった。

「これでIDカードが作れるのね?」。江さんは出来上がったばかりの臨時身分証を手に、信じられないような面持ちで、感動の涙を抑えることができない様子だった。「私の夢がかないました。皆さん、本当にありがとう!」(c)CNS/JCM/AFPBB News