(※この記事は、2019年1月7日に配信されました)

【1月7日 AFP】ネパールにあるバルディア国立公園(Bardia National Park)のジャングルに設置した隠しカメラで撮影された映像を次々と確認する地元住民のチャヤン・クマル・チョーダリー(Chayan Kumar Chaudhary)さん(25)。捜しているのは、お気に入りのトラ──カメラに寄るのが好きな「セルフィータイガー」だ。

 一時期、絶滅寸前にまで追いやられていたネパールのトラだが、その生息数は増加傾向にある。9年にわたる保護活動が実を結び、2009年に121頭だった野生のトラは、現在、成体だけで推定235頭と2倍近くとなった。バルディア国立公園に限っては、その個体数は5倍近くまで復活している。

 2017年11月に始まった新たな調査では、五つの国立公園を擁するネパール南部の低地を区分けし、トラの活動を記録する特殊カメラ3200台以上が設置された。これらのカメラは、自然保護活動家らが野生のトラの生息数を追跡する助けとなっており、2018年3月までに撮影された写真は4000枚を超えた。

 徹底した調査の最前線に立つのは、チョーダリーさんのように訓練を受けた地元住民たちだ。チョーダリーさんはジャングルの茂みの中に隠されたカメラの撮影画像をチェックし、公園内を移動するトラの動きを追い、記録している。

 自然保護活動家らはネパールでのトラ生息数増加の成果について、密猟すれば大金を得ることも可能な地元住民を保護活動家として巻き込んだ戦術のおかげだと指摘する。

 写真にはさまざまなトラの生態が捉えられている。1頭だけで移動するトラ、じゃれつく子どもを従えた母トラ、時に新鮮な獲物に食らいつくトラの姿もある。チョーダリーさんのお気に入りは、レンズの前で毛繕いしているトラの写真だ。

 こうして撮影された写真をほぼすべて分析したというネパール野生動物・国立公園局のマン・バハドゥール・カドカ(Man Bahadur Khadka)局長は、「トラのしま模様は、人の指紋のように、一頭として同じものがないことが分かった」と話している。

■トラが増えれば、観光客も増える

 1900年には、地球上には推計10万頭を超えるトラがいた。しかし2010年になると、その数は全世界で3200頭にまで落ち込んだ。

 ネパールのジャングルは約100年前、国を支配していた王族や、この国に進出してきた英国の要人たちの狩猟場と化した。彼らの狙いは、ベンガルトラだった。さらに近年では、2006年まで10年にわたって続いた内戦によって南部では密猟が横行し、ネパールのトラは絶滅寸前に追い込まれた。

 政府が方針を転換したのは2009年だった。地域ごとにトラを保護するためのグループを募集し、多数のボランティアの若者たちが国立公園のパトロール活動や啓蒙(けいもう)、トラの生息地の保護活動に参加し始めた。

「トラは私たちの財産。保護しなくてはならない」と述べるのは、サンジュ・パリヤー(Sanju Pariyar)さん(22)だ。10代で密猟監視グループに加わったというパリヤーさんは、「トラやサイの数が増えれば、観光客が増え、自分たちのためにもなることをみんな分かっている」と話す。

 密猟されたトラの主な行き先は、希少な体の部位を伝統薬として珍重する中国だ。密猟者に対するネパールの罰則は厳しく、15年以下の禁錮刑と高額の罰金が科される。

 2010年にネパールは、トラの生息数を2022年までに倍増させる目標を掲げ、トラが生息する他の12か国と協定を結んだ。最初に目標を達成するのは、どうやらネパールになりそうだ。

 世界自然保護基金(WWF)のネパール支部長、ガーナ・グルン(Ghana Gurung)氏は、「ネパールのように小さく、課題のたくさんある後発発展途上国が達成できるのだから、他の国も同じようにできるはずだ」と語った。

 映像は2018年1月、5月、10月などに撮影。(c)AFP/Paavan MATHEMA