【11月1日 AFP】脊柱に電気の刺激を与えることによって神経接合を再生させ、まひしていた患者の歩行を可能にする画期的な治療が成功し、事故などで長年体の自由を失っている人々に希望をもたらしている。英科学誌ネイチャー(Nature)に10月末、研究結果が発表された。

 脳神経外科医と技術者らから成るチームは、ターゲットを定めた電気パルスを使って、脳が伝える信号と同じように筋肉の連鎖反応を引き起こした。電気パルスは、下半身の筋肉の動きをつかさどる脊椎の特定部位に慎重に配置され、埋め込まれたインプラントによって発信される。現時点で研究の見通しは明るいという。

 2011年に交通事故に遭って以来、もう歩くことはできないと言われていたヘルトヤン・オスカム(Gert-Jan Oskam)さん(35)は、「この試験治療が希望を与えてくれた」と述べた。オスカムさんは5か月の治療を終えた時点で、電気パルス無しでも短距離を歩けるようになった。

 別の患者デービッド・ムゼー(David Mzee)さん(28)も、2010年の事故で左脚が完全にまひしていたが、5か月の治療の結果、電気刺激を使った歩行器で最長2時間歩くことに成功した。短距離ならば自力で歩くこともできるという。

 同研究を率いたスイス連邦工科大学(Swiss Federal Institute of Technology)の神経科学者グレゴワール・クルティーヌ(Gregoire Courtine)氏は、「10年以上にわたる慎重な研究」が結果を生んだとAFPに述べた。

 これ以前の臨床試験では、脊柱にいわゆる連続電気刺激を与える方法が用いられていたが、マウス実験では成功していたものの、人間に対しては期待していた結果が得られていなかった。

 しかし、対象部位を特定した電気刺激を使った今回の訓練を数か月続けた結果、3人の患者がまひしていた筋肉を電気刺激無しでも動かせるようになった。クルティーヌ氏は「結果は全く予期しなかったものだ」と述べている。

 今回、試験治療の対象となったのは下半身にある程度の感覚が残っていた患者で、クルティーヌ氏は今後、電気パルス治療と神経細胞の修復を含む生物学的治療法が併せて行われることを望むと述べた。

 クルティーヌ氏と神経外科医のジョスリーヌ・ブロック(Jocelyne Bloch)氏は、共同でこの実験治療をさらに進めるための新規事業を立ち上げた。この技術がさらに効果を発揮すると予想される、脊髄損傷事故に遭ったばかりの患者を対象に試験治療を実施していく予定だという。

 クルティーヌ氏は「まひした人々の人生に変化をもたらしていくにはまだ課題が山積している」とコメントした。(c)AFP/Sara HUSSEIN