【8月22日 AFP】183分。いい写真を撮るのに十分な時間だと思うかもしれない。だが、皆既月食を撮影するには十分な時間とは言えない。それも複数の場所で。

 7月27~28日にかけて見られる壮大な天文ショー、今世紀最長の「ブラッドムーン」を数日後に控え、どのようにこれを表現すればいいか悩み始めた。今回は、火星の大接近とも時期が重なっている。

 月食や日食のような現象があるたびに、私たちはギリシャを象徴する何かを背景に表現しようと試みる。大体はパルテノン(Parthenon)神殿になる。だが、今回は月がパルテノン神殿を静かに昇っていく時、月食は起こっていない。夜中、月が空高くにある時間に起こるはずだ。パルテノン神殿やスニオン(Sounio)のようないつもの名所を背景にするのは不可能だ。

古代ギリシャの女神ヘラ像とその奥の空に浮かぶ皆既月食の月(2018年7月27日撮影)。(c)AFP / Aris Messinis

 そこで、いくつかの場所から撮影することにした。月食が始まった時は、アテネの守護女神で知をつかさどるアテナ(Athena)像を背景に月を撮影した。このアテナ像は、市の中心部にあるアテネ大学(Athens University)の新古典主義建築の建物を見下ろす場所にある。アテナ以上にアテネを象徴するものはない。アテナはアテネそのものであり、古代ギリシャの歴史と神話を表している。もう十分に写真を撮ったと感じ、次に予定していた場所――アテネ国立考古学博物館(National Archaeological Museum)に向かった。博物館の屋根には、アポロン(Apollo)、ヘラ(Hera)、アレス(Ares)、平和の神エイレーネー(Eirini)が富の神プルートス(Plutus)を抱く像が置かれている。

古代ギリシャの富の神プルートスを胸に抱く平和の女神エイレーネー像とその奥の空に浮かぶ皆既月食の月。(c)AFP / Aris Messinis

 すべての像と月が写っている写真が撮りたかった。なぜなら彫像は静的なものではなく、動きを引き出すものからだ。神々と戯れるチャンスだ。世界と人間をもてあそぶ神々が登場する古代ギリシャ神話を象徴する写真を撮ろうとした。その試みは成功したと言いたい。特に、アポロンとヘラが月をボールのように打ち合っているように見える一枚が良かった。

 このような写真を撮るのは簡単ではない。その夜は300枚ほど撮影した。アポロンとヘラはたくさん撮った。だが、使える写真はたった1枚ずつだった。それぞれが月を持っているように見える写真だ。

古代ギリシャの太陽神アポロン像とその奥の空に浮かぶ皆既月食の月。(c)AFP / Aris Messinis

 基本的に撮影にかかる時間は1秒で、自分の望むポジションに対象物が来るようにするにはミリ単位の調整が必要だ。

 念のため、アクロポリス(Acropolis)にも行った。ひょっとしたらパルテノン神殿と月の写真が撮れるかもしれないと期待していた。だが、思った通り、月の位置が高すぎた。

 月が完全な皆既状態となる「皆既食」は、今世紀最長の183分続いた。神経をすり減らす経験だった。いい写真を撮るには大きなレンズが必要となる。光の状態は良くないので、シャッターが開いている時間を長くしなければならない。だが、月の動きが速かったため、難しかった。うまくバランスをとらなければ、写真がぼやけてしまう。

 すべてがあっという間の出来事で、再びこのようなチャンスに巡り合えることはそうそうないことから、非常に緊張した。クロップ機能があるニコンD500を三脚で固定した。レンズは200-500ミリだったが、クロップ機能と組み合わせると300-700ミリレンズのように使える。

古代ギリシャの戦の神アレス像とその奥の空に浮かぶ皆既月食の月。(c)AFP / Aris Messinis

 写真が配信されると、フォトショップを使って画像を加工したに違いないと言ってくる人もいた。自分の仕事について、このような指摘を受けるのは初めてではない。正直言って、これはお世辞だと思っている。私が撮った写真が実に素晴らしいので、それが本物だとは信じられない、ということではないだろうか。

 その夜の写真の出来には全体的に満足していた。さあ、次はまた別の方法を考えなくては……。

このコラムはギリシャ支局のチーフカメラマン、アリス・メシニス(Aris Messinis)とギリシャのアテネを拠点とするジャーナリスト、ジョン・ハドゥリス(John Hadoulis)氏が共同で執筆し、2018年8月9日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

古代ギリシャの知恵と戦いの女神アテナ像とその奥の空に浮かぶ皆既月食の月。(c)AFP / Aris Messinis