【9月10日 AFP】柔道は相手を畳に投げ飛ばす競技だが、女性指導者の藤井裕子(Yuko Fujii)氏が投げ捨てようとしているのは、世界のスポーツ界の大きな障害の一つだ。穏やかな口調が印象的な35歳の藤井監督は、ロンドン五輪に出場した英国女子代表のコーチを務めるなどの実績を残した後、5月にブラジルで女性として初めて男子代表の監督に抜てきされた。

 柔道に限らず、最高レベルの男子スポーツで女性がトップを務めることは非常にまれで、日本やフランス、ロシアといった柔道の強豪国では、男子選手はもちろん、女子選手のコーチも大多数は男性だ。監督の母国である日本でも、女性が男子チームを率いるのはほとんど考えられないという。

 リオデジャネイロ市内の代表トレーニングセンターでAFPの取材に応じた藤井監督は、「日本はブラジルよりも伝統を気にするマッチョな国です。男子チームに女性は一人もいません。いるとすれば、栄養士の方くらいですね」と話す。

 これはスポーツ界全体に共通の構造で、一流女性選手を女性コーチが指導することは極めてまれで、男子選手を女性が指導するケースは実質ゼロといえる。例えばブラジルでは、エミリー・リマ(Emily Lima)という女性指導者がサッカー女子代表を率いたことがあったが、長続きせず2017年に解任され、後任には男性指導者が就いた。テニスでも、男子の国別対抗戦デビスカップ(Davis Cup)のスペイン代表を率いたガラ・レオン(Gala Leon)監督が、2015年に同じ運命をたどった。

 しかし、ブラジル国内で、柔道男子代表の新監督は温かい歓迎を受けている。

 代表選手の一人である100キロ超級のルアン・イスキエルド(Ruan Isquierdo)は、日本語の「先生」という言葉を使いながら、「ユウコセンセイが違いをもたらした。センセイの下で、僕らの技術は伸びている」と話す。

 体重140キロのイスキエルドと小柄な藤井監督の体格差は、大人と子どもと言っていいほど歴然としている。しかし先生の前では、彼のパワーも役立たずだそうだ。イスキエルドは「こちらがのろのろしていたら、確実に投げられてしまう。センセイの技はすごい」と言って笑う。