【AFP記者コラム】中毒者たち
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【4月23日 AFP】これは一種の中毒だ。再びやりたいと思っていないのに、戻って来てしまう。寒さとはそういうものだ。まるでジャンキーのようにとりこになる。ハイになれる場所で手ごろに行けるのはここだけだ(他のこうした場所へ行くには時間がかかり過ぎる)。そして今年、僕は自分と同じような中毒者の写真を撮ることにした。今回ばかりは、本当に寒かったからだ。


どのスポーツにも人をとりこにする何かがある。サーフィンだったら、そのシンプルさと海だ。道具はたくさん要らない。ボードと水着があればいい。波は頭の中にあるすべてのことを洗い流してくれる。水の中にいるときには、他のことは一切、忘れてしまう。
僕がサーフィンとウインドサーフィンを始めたのは10代の頃、生まれ育ったフランス南西部でだ。だが、そこに寒さが加わったのは20年前、妻と出会ったときだ。彼女はフィンランド人で「偉大な北国」から来ていた。だから僕は「偉大な寒さ」と、それがどれほど中毒になるかを発見した。冬になると僕は凍った海の上に散歩に出かけた。気温は氷点下15度ほど。気分が乗って、気づいたときには海岸線から10キロほど離れていたこともあった。

寒さには本当に癒やされる。完全にすべてを忘れ去ってしまう。ただ、すべてが空になる。
いつかはこの二つ(サーフィンと寒さ)に対する愛情が一体となることは避けられないと思っていた。そして北極圏にあるノルウェー・ロフォーテン諸島(Lofoten Islands)のウンスタッド(Unstad)こそは、この二つを結び付ける完璧な場所だった。

ウンスタッドについて最初に知ったのはあるサーフィン雑誌で、米カリフォルニア州出身の1980年代の世界チャンピオン、トム・カレン(Tom Curren)氏がサーフィンをしにここを訪れたというのを読んだときだ。興味をひかれて、私は心の中にそのことをメモしておいた。
冷たい水の中でサーフィンをしたければ、ノルウェーの北極圏にあるウンスタッドだけが基本、世界で唯一簡単に行ける場所だろう。私が拠点としているパリからは6~7時間。パリから空路でノルウェーの首都オスロへ飛び、そこで乗り継いでボードー(Bado)へ、さらに小型のプロペラ機に乗り換えレクネス(Leknes)まで行くと、ウンスタッドまではもう20キロほどだ。
無論、アラスカ(Alaska)やカムチャツカ(Kamchatka)半島など、サーフィンができる寒い場所は他にもあるが、それらは本当に辺ぴで、たどり着くのに数日かかる。

ここに来るのは4年目だった。いつもはこれほど寒くなく屋外の気温は通常、氷点下5度程度。凍えはするが間違いなく耐えられる。これはメキシコ湾流(Gulf Stream)がここまで流れ込んでいるからで、水温は通常約5度。これも冷たくはあるが、良いウエットスーツを着ていれば耐えられる。
しかし、今年は違った。2月末に欧州の大半を覆った大寒波は、3月初旬にはここまで北上し、気温は氷点下15度まで下がった。強風も伴っていたため、体感温度ではまるで氷点下25度だった。これぞエクストリーム・サーフィンだ。

どのくらいエクストリームなのか? 車を50メートルほど離れたところに止めてあるとする。海から上がって車にたどり着くまでにウエットスーツが固まり始め、凍っていくのを感じるだろう。スーツはそのまま車外で脱がねばならず(分厚く固くなったスーツを車内で脱ぐのは無理だから)、乾いた服を身に着けてすぐに車に飛び乗り、ヒーターを最強にする。そして、体が生き返るのを待つ。

寒いために、体は通常よりも多くのエネルギーを消費する。だからその日の終わりには疲れ切っている。ハワイのような暖かい海でサーフィンをするのとはわけが違って疲労困憊(こんぱい)、うんざりして気持ちはなえ、ベッドに倒れ込む。だが、次の朝になると、また行く気持ちになっているのだ。
どうしてそんなことをするのか? そこへ行けば、完全にすべてを忘れ去るからだ。ウンスタッドで1時間も過ごせば、2週間の休暇を取っているような気になる。

暖かい海でのサーフィンと比べれば、間違いなくつらいし、難しいし、準備ももっと必要だ(水着ではなく分厚いウエットスーツとサーフブーツ、それに潮の流れが強いことが多いので僕の場合、撮影をするときには速く動くためにフィンがいる)。体はつらい。寒さと闘わなくちゃならない。本当に疲れる。だけど、そこに絶大な喜びがある。マゾヒズムではまったくない。ただまさにドラッグのようだというだけだ。

これぞ大きな喜びに他ならない。もちろん周囲の環境で魔法の効果も増大する。ウンスタッドは山に囲まれている。身体的なチャレンジに加え、恍惚(こうこつ)となるほど美しい場所でのサーフィン。それほど混んでもいない。今年、私の滞在中に一番混んでいたのは最後の日で、20~25人がいるだけだった。

それにもちろん、オーロラがある。景色の一部としてこれ以上のものはないだろう。そして、ここのようなへき地へ来て初めて手に入る瞬間がある。

例えばある夜、僕は海の中で夜の写真を撮ろうとした。僕たちがオーロラが出るのを待つ中、強風が吹いていた。ウエットスーツを着て海に入る前に、僕たちは浜辺でたき火をおこし、サーモンにパプリカとタマネギを添えてホイル焼きを作った。絶品だった。素材の質がいいからだけではなく、その環境、すべての設定が文句なしだった。でもこれは、いつまでも残る思い出のほんの一つにすぎない。

ポートレート撮影のアイデアは、サーフィンをライフスタイルとして記事にしたいと思ったところから始まった。そういうふうに考えているのは僕だけではなく、僕のようにこの場所に中毒になっている人々は他にもいる。サーフィンを自分の人生にするためにハワイやカリフォルニアに住む必要はない。ここでも、サーフィンは人生になり得るのだ。


ポートレート撮影は非常にうまくいった。おそらく僕が手掛けた撮影の中で、最も自然に撮れた仕事の一つだろう。皆、サーフィンに夢中で人が良く、自然体だった。そして僕と同様、この特別な場所でサーフィンをするそれぞれの理由を持っていた。
獣医師のエレン・ホルゲーセン(Ellen Holgersen)さん(32):「冷水の中でのサーフィンの方が好き。だからここへ移住したんです。以前はドアから一歩出れば、サーフィンができるような場所に住もうとしていた。でもそれは、私にとってジムに行くのと一緒で人が多すぎ、単純すぎた。ここは、この寒さのせいでもっと冒険のようになる」

ホテル支配人のリサ・ブロム(Lisa Blom)さん(38):「ロフォーテン諸島は、大人のための大きな遊び場のようなもの…。サーフィンは人生そのもの。なくてはならないもの。私にとっては呼吸をしたり、食べたり、眠ったり、家族と過ごしたりすることと一緒。ここには一定して素晴らしい波がある。サーフィンをしないときにも、ハイキング、スキー、カヤック、スタンドアップパドル、釣り…できることは山のようにある」

コーヒーショップとB&B(朝食付き宿)を経営するオーレ・クリスティアン・ヒェルトゥンラーセン(Ole Kristian Fjelltun-Larsen)さん(34):「冬はもっとキツいね。瞑想(めいそう)のエクストリーム版みたいに、自然とエクストリームなコンタクトを図る」

水産工場で働くニルス・ニルセン(Nils Nilsen)さん(26):「僕にとってサーフィンとは心の平穏、頭の中を静めること、集中すること、これだね」

ウンスタッドはまるで別の惑星、別の世界みたいだ。完璧な禅がここにある。この北極圏の空気がここをそうしているんだと思う。ラップランド(Lapland)でも同じ雰囲気を感じる。
もしもここへ来たら、あなたはもはや今までのあなたではなくなる。北へ向かえば向かうほど、人、旅行者、ハイカー、皆、少なくなっていく。だけど何よりも特別な感じがしてくるのは、この寒さのせいだ。これを「北極圏スピリット」と呼んでもいいかもしれない。
このコラムはAFPフランス本社のチーフフォトエディター、オリビエ・モーリン(Olivier Morin)が執筆し、3月29日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。
