【7月4日 AFP】これまで、常に旅行先ランキングの上位に挙がっていた地中海周辺での政情不安が増す中、それらに代わる比較的安全な旅行先として、ポルトガルが人気を集めている。

 トルコ、チュニジア、エジプトといった地中海周辺国での襲撃事件に続き、先月末にはトルコのアタチュルク国際空港(Ataturk International Airport)で40人以上が死亡する事件が起きた。トルコは今やイスラム過激派とクルドの分離独立派武装勢力の双方から狙われる標的となっている。同勢力はこれまでに、外国人観光客に対してトルコを訪れるリスクを明言している。

 地中海周辺での惨事が報じられるにつれ、ポルトガルや隣国スペインでは外国人観光客の数が増えている。なかでも代表的なのは太陽が降り注ぐポルトガル南端アルガルベ(Algarve)地方だ。海辺の小さな町モンテ・ゴルド(Monte Gordo)で旅行会社を営むレナート・ドリベイラさんは「ポルトガルは守られている。欧州や世界の政治的影響が少なく、紛争地帯からも遠いからだ」と語る。

 昨年ポルトガルを訪れた観光客は、前年比約10%増の約1020万人。アルガルベ地方だけでも250万人が訪れた。観光収入でいえばポルトガル全体の114億ユーロ(約1兆3000億円)のうち50億ユーロ(約5700億円)がこの地方に落とされた。ホテルの予約数も年初から12%アップしている。

 アルガルベのホテル協会「アエタ(Aheta)」のエルデリコ・ビエガス(Elderico Viegas)会長によると、この地方で最も人気のある施設は、38か所あるゴルフ場だ。観光客の10人に1人、25万人超がゴルフ場を訪れており、利用客が直接・間接的に4億ユーロ(約460億円)の収入をもたらす。

 ポルトガル南部のもう一つの魅力は、砂の目の細かい美しい浜辺や、鮮やかな黄色の断崖が連なる海辺の風景だ。この地方の最大のファンは年間180万人が訪れる英国人だろう。英旅行業協会(ABTA)によると、昨年夏の予約数はその3割増となったという。

 23日に行われた英国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を望む結果が出たことは、アルガルベの観光にも打撃をもたらすかもしれない。しかし、ポルトガルを穴場の旅行先として認識し始めたスペイン人、ドイツ人、フランス人観光客らによって、英国人観光客の減少分は穴埋めされるだろう。

 ドイツ南東部バイエルン(Bavaria)州のパッサウ(Passau)からやって来たというロスビータ・ゲルさんは、サンタ・エウラリア(Santa Eulalia )村のビーチで海から上がりながら「ポルトガルは安全に見える。だが、私たちがここに来ている大きな理由は太陽だ」という。これこそが、アルガルベ地方の観光業界が育てたいと願っているイメージだ。

 他の観光地の災禍に便乗し、広告で安全を大きく打ち出すのは「非生産的」だとホテル協会のビエガス会長はいう。そして何よりも「攻撃から完全に安全な場所など、どこにもない」のだからと。(c)AFP/Brigitte HAGEMANN