【9月2日 AFP】中東地域で最も多くの化学兵器を保有していると考えられているシリアだが、その種類と保有量については謎に包まれたままとなっている──。

 英仏米の3国は、ダマスカス(Damascus)近郊で8月21日に数百人が死亡した事件について、シリア政府が化学兵器を使用したと断定し同政府を非難している。ジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官が1日に語ったところによると、米政府は21日の攻撃がバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権によるもので、また、その際使われたのがサリンであることを裏付ける証拠を持っていると述べた。

 また、フランスも1日、シリアの化学兵器に関する機密情報を近日中に開示することを明言。仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ(Le Journal du Dimanche)がフランス情報当局により収集された情報として報じたところによると、シリアの武器の一部は過去30年にわたって備蓄されてきたとされ、そのなかには1000トン以上の化学兵器も含まれているという。同紙は備蓄されている化学兵器について、サリンの他にもマスタードガスもあると指摘。さらには、シリアの科学者はサリンよりはるかに毒性が強い化学物質の開発に取り組んでいるとの情報もあるという。

 化学兵器の使用が政権側によるものとする一連の報道について、アサド政権は真っ向から否定しており、攻撃は反体制派が仕掛けたものと主張している。シリア政権側を支持するロシアは前月、反体制派が3月に北部アレッポ(Aleppo)で化学兵器を使用したことを示す証拠があると述べていた。

■化学兵器の保有を認めたシリア

 シリア政府は2012年7月23日、同国が化学兵器を保有していると初めて認めていた。外国からの軍事介入に対してのみ使うとし、自国民に向けては使用しないと主張していた。

 シリアは、化学兵器禁止条約(Chemical Weapons ConventionCWC)に未署名の数少ない国の一つ。米国の独立機関、核脅威イニシアティブ(Nuclear Threat InitiativeNTI)によると、シリアの化学兵器プログラムは、1970年代にエジプトと旧ソ連の支援を得て開始された。その後、1990年代にはロシア、そして2005年からはイランからの支援を得て、今日に至っている。

 英シンクタンク・国際戦略研究所(International Institute for Strategic StudiesIISS)の武器不拡散と武装解除が専門のアナリストは、シリアの化学兵器プログラムは中東地域において最大の規模で、域内の核保有国イスラエルに対するけん制を目的としたものであると指摘した。

 ただIISSのアナリストは、亡命したシリア軍事関係者から収集したとしているこれらの情報について、完全なものではないと述べている。

■有機リン酸化合物…神経ガス

 フランスのシンクタンク、戦略研究財団(Foundation for Strategic Research)の専門家は、シリアの化学兵器の威力について、「強力」と評価している。2012年7月には、「シリアは有機リン酸の合成技術を習得した。(有機リン酸化合物は)最も毒性が強く最も効率的な最新の化学兵器だ。サリンやVXなどの神経ガス、マスタードガスなどがそれにあたる」と説明していた。

 1月30日、イスラエル空軍はダマスカス近郊の地対空ミサイル発射施設と隣接する軍事施設を攻撃した。施設に化学兵器があるとにらんだ攻撃と考えられている。米高官によると、イスラエルは、レバノンのシーア派原理主義組織ヒズボラ(Hezbollah)に化学兵器がわたるのを恐れたとされる。

 1月の攻撃について米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)は、シリアの生物・化学兵器の研究施設が攻撃された可能性があると報じていた。(c)AFP