【7月27日 AFP】カンボジアで長期にわたって与党の座を維持してきたカンボジア人民党(Cambodian People's PartyCPP)は今、珍しいジレンマに直面している。数十年にわたりほぼ独力で国を治めてきたフン・セン(Hun Sen)首相という強力な政権トップの座を、誰に引き継がせるべきか。その答えは、「息子」かもしれない。

 フン・セン首相は今後も10年以上は政権トップにとどまる意向を公言しているが、60歳になった今、カンボジア政界に築かれた「王朝」を子どもたちに引き継ぐ準備を進めていることを示す兆候が、次第に強まっている。

■首相と「うり二つ」の息子

 米国で教育を受けた三男のフン・マニ(Hun Many)氏(30)は、同首相の子どものなかでは初めての国政入りを目指している。整った身なりと明るい人柄の同氏は、CPPの支持者の間でも人気が高い。

 28日の総選挙では、南部コンポンスプー(Kampong Speu)州から出馬しているフン・マニ氏だが、これまでの選挙運動での発言をみるかぎり、父親そっくりだ。

 フン・マニ氏が有権者に訴える内容は、CPPが敗れればカンボジアは内戦の危機に陥るとの警告から、「CPPの指導者たちがこれまで成し遂げてきたことを学ぶことによって、国民に仕える」という曖昧な公約まで、父親の路線を忠実に守るものだ。だが、これまでのところ、このやり方は功を奏しているようだ。

 ある支持者は「フン・セン首相は高い教育を受けていないのに、ここまでカンボジアを発展させた。世界の一流大学で学んだ彼の子どもたちは、より多くを成し遂げられるはずだ」とAFPに語った。

■「フン・セン王朝」の様相強まる

 フン・セン首相は子どもたちを政界やメディア、軍、警察に戦略的に配置し、自身が退いた後も一族の権力が保持されることを画策していると、専門家らはみている。

 米国が資金援助する人権擁護団体「カンボジア人権センター(Cambodian Center For Human RightsCCHR)」のオウ・ビラック(Ou Virak)氏は、「フン・セン首相が王朝体制を築いていることが、次第に明らかになってきている」と語った。

 子どもや親族(フン・セン首相の義理のおいは警察署長だ)を権力のある座に送り込んでいるのは、首相に限ったことではない。

 カンボジアではこの10年間、与党幹部の息子や娘たちの間での縁組みが相次いだ。この蜘蛛の巣のようなつながりにより、血縁関係で固く結ばれた次世代エリート層が誕生した。

「縁故主義はカンボジア政治文化の一翼を担っている」と指摘するのは、香港(Hong Kong)を拠点とする非政府組織(NGO)「アジア人権委員会(Asian Human Rights Commission)」の元調査員で政治アナリストのラオ・モン・ヘイ(Lao Mong Hay)氏。「私たちはいま、封建社会の形成を目にしている」と述べ、フィリピンではこうして富と権力が結びつき、経済を牛耳る結果になったことを例に挙げた。

 CPPはこうした批判を退け、党幹部の子息はその役職に最も適した人物として選ばれただけだと主張している。事実、その大半は多額の留学費用を掛けて国外で教育を受けてきた。

■最終的には野党側の利に?

 一方、野党勢力からみれば、次世代CPPの台頭は、同党が変容するカンボジア社会の実態をいかに把握していないかを示すものであり、実質的な脅威にはならないと、野党のソン・チャイ(Son Chhay)議員は語る。

 ソン・チャイ議員は、「親から役職を引き継いだ若い世代は、資質を備えていない。国外で教育を受けているから親よりも優れているし、独裁者のようにふるまうことはないと人々は言うが、そうした論理は疑問だ」と述べ、リビアの最高指導者だった故ムアマル・カダフィ(Moamer Kadhafi)大佐や、北朝鮮の故金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記の息子たちを例に挙げた。

 与党が権力を世襲すれば、最終的に野党側に利するとソン・チャイ議員はみている。「どんな社会においても、良識ある人々が公平に政治過程に参加できず、金持ちと権力者の子どもだけが参加を許されるような状況は不満を生み、社会制度全体が不幸になるからだ」(c)AFP/Cat Barton