【7月19日 AFP】今月末に総選挙を控えたカンボジアで19日、最大野党カンボジア救国党(Cambodia National Rescue PartyCNRP)のサム・レンシー(Sam Rainsy)党首(64)が事実上の亡命生活を送っていたフランスから帰国した。

 サム・レンシー氏が率いるCNRPは、30年近くにおよぶフン・セン(Hun Sen)首相の支配体制を終わらせるべく、総選挙での勝利を目指している。

 フランスから到着したサム・レンシー氏は、首都プノンペン(Phnom Penh)の空港に降り立つと祖国の地面に口づけをし、空港周辺を埋め尽くした支持者らに「とても嬉しい。皆さんと共に国を救うために帰って来た」と語り掛けた。

 空港から市中心に通じる沿道にはCNRPの党旗を手にした数万人が集まり、「変化を!」と連呼しながらサム・レンシー氏の帰国を歓迎した。その中の1人、サム・レンシー氏と同年の64歳の支持者は「すごく喜んでいる。民主主義の指導者の帰国を目にできて、とても興奮している」と語った。

 サム・レンシー氏は2009年、人種差別を扇動し虚偽の風説を流布したなどとして起訴され、収監される恐れが出たため、フランスに出国した。同氏は政治的な策略による起訴だと主張しているが、欠席裁判で11年の禁錮刑判決が下された。だが、フン・セン(Hun Sen)首相の要請により、ノロドム・シハモニ(Norodom Sihamoni)国王が前週、サム・レンシー氏に恩赦を与え、28日の総選挙を前に帰国がかなった。

■選挙名簿に名前はなし

 カンボジアへの帰国前にAFPの取材に応じたサム・レンシー氏は、恩赦を「民主主義の小さな勝利」と評価した上で、「やるべきことは、まだたくさん残っている」と語った。

 フン・セン首相の最大のライバルと目されているサム・レンシー氏だが、選挙名簿から名前が削除されているため、議会による法改正がない限り今月末の選挙に出馬することはできない。それでも同氏は、自らが党首を務めるCNRPへの支持を強化するため、帰国後はすぐに各地で遊説を行うと語った。

 国連のスーリヤー・スベディ(Surya Subedi)人権特別報告官は15日、カンボジア政府に対し、サム・レンシー氏の完全な政治活動を認めるよう求める声明を発表している。

■フランスと祖国を行き来する生活

 サム・レンシー氏は、政治家だった父親が行方不明となった後に16歳でカンボジアを離れ、仏パリ(Paris)に渡った。同氏の父親は失敗したクーデターに絡み、政府機関に暗殺されたとみられている。

 その後、フランスにある欧州経営大学院(INSEAD)でMBA(経営学修士)を取得したサム・レンシー氏は、パリで複数の銀行に勤務した後、自身の会計事務所を設立。内戦終結後の1992年、カンボジアに帰国し、新政府で一時、財政経済相を務めた。

 フン・セン首相と対立したサム・レンシー氏は2005年にも、名誉棄損の罪で有罪となった際に国外に逃れているが、この時は翌年に国王から恩赦が出されカンボジアに帰国している。(c)AFP/Suy Se