【6月14日 AFP】アフリカ・モザンビークの首都マプト(Maputo)に住むマリア・ドウカ(Maria Douca)さんは、新しいコンロの上で誇らしげにホウレンソウとナッツを調理する。燃料に使っているのは地元で採れたキャッサバ(イモの1種)から作られたエタノール燃料だ。

 マプトでは今、デンマークのバイオ企業大手ノボザイムズ(Novozymes)が主導する多国籍コンソーシアム(共同事業体)「クリーンスター(Cleanstar)」が、このエタノールコンロを活用した国際的な二酸化炭素(CO2)排出取引事業計画を進めている。ドウカさんは最初にエタノールコンロを使い始めたマプト市民の1人だ。

 モザンビークで一般的な木炭コンロからエタノールコンロへと切り替える市民がもっと増えれば、その分のCO2排出枠(炭素クレジット)を地球の裏側の企業へ売却できる。

■余ったキャッサバを燃料に、煙もなく健康にも貢献

 クリーンスターは、モザンビーク国内の農家から作りすぎて余ったキャッサバを買い上げ、これを原料として中部の港湾都市ベイラ(Beira)近郊でエタノールを生産しマプトに出荷している。マプトでのエタノールコンロの人気は生産数を上回る勢いだそうだ。最初の2か月でコンロ約200台が売れ、現在3000台の追加発注をしている。

 コンロの価格は1台25ドル(約2000円)。優にドウカさん一家8人の1週間の生活費に相当するが、彼女は既に2台目を購入した。

 スウェーデンの調理機器メーカー、ドメティック(Dometic)がデザインしたコンロは、シンプルでコンパクトな清潔感のある外観をしている。一見するとキャンプ用コンロのようだが、煙は全く出ない。このため、ドウカさんは生まれて初めて屋内で料理をすることができるようになった。「地面で(木炭コンロを使って)調理していたときは、煙のせいで涙が止まらず、ぜんそくにも苦しんでいた」とドウカさんはAFPに打ち明ける。

 モザンビークでは供給エネルギーの85%が木材・木炭由来。この2つは呼吸器系疾患の最大の原因とされ、原始的な調理用コンロを原因とする死者数は毎年約200万人に上る。これは、マラリアによる年間死者数を上回る。

■排出取引市場が注目する理由とは

 マプトの木炭市場の年間取引額は1億5300万ドル(約121億円)だが、クリーンスターはこの市場に大きく食い込もうとしている。ここ3年で木炭価格が2倍に跳ね上がったこともあり、エタノールは販売価格でも木炭とさほど変わらない。

 クリーンスターのプロジェクトには、米金融大手バンクオブアメリカ・メリルリンチ(Bank of America Merrill Lynch)が400万ドル(約3億2000万円)を投資している。CO2削減量に応じて生じた炭素クレジットは、欧州連合(EU)やオーストラリアなどの排出権取引制度を通じて売却することになる。

 EUが炭素クレジットの新規購入を2013年以降は最貧国からのみに制限すると決定したことを受け、モザンビークなど途上国への投資家の注目は高まっている。クリーンスターの事業モデルが成功を収めれば、他のアフリカ諸国にも同様の事業を広げられると関係者は期待を膨らませている。

 当初、国民の主食であるキャッサバを燃料用に販売することに消極的だったモザンビーク政府も、現在では事業を歓迎している。

 気候に恵まれ肥沃な土地が広がっている同国だが、利用可能な土地のうち実際に使用されているのは10%以下で、アフリカ諸国の中で最低の利用率だ。労働人口の8割を占める農民の大多数は種子や肥料、近代的な農業器具に手が届かず、食品輸入は輸出を上回る。栄養失調も深刻だ。こうした国情においてクリーンスターのエタノールコンロ事業は、コンロやエタノールの製造者のみならず、それを使う家庭にも利益をもたらし、気候変動対策にもなる。「誰もが得をする」解決策になり得るのだ。

■「肉は炭火」、習慣を変えるのは難しい?

 とはいえ、専門家の中には「人々の調理習慣を変えるのはそう簡単ではない」との慎重な意見もある。実際、マプトに住むドウカさん一家もいまだに木炭コンロを使い続けていることを認めている。

「お茶を入れたり卵をゆでる時にはエタノールコンロを使うけど、大皿料理を作るときは木炭に限るね」と、ドウカさんの息子は語った。エタノールコンロを使い始めてから木炭の消費量は半分に減ったが、肉を焼くにはやはり炭火が一番なのだそうだ。(c)AFP/Jinty Jackson

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