【10月31日 AFP】マダガスカルは貧困克服への道として、鉱業の発展に全精力を注いでいるが、これによって環境や社会がこうむるリスクは大きい上、見返りが確実に得られるかどうかも疑わしい状況だ。

 マダガスカルは世界の最貧国の一つだが、地下の鉱物資源は豊富で、なかでもサファイア、ニッケル、ボーキサイト、イルメナイトなどは世界一の埋蔵量を誇る。しかし、現在のところ同国のGDP(国内総生産)に鉱業が占める割合は4%に過ぎず、鉱物価格高騰の影響もあって、未採掘であるマダガスカルの巨大な鉱脈に、多くの外国企業が熱い視線を向けるようになっている。

 例えば、英豪系鉱業大手リオ・ティント(Rio Tinto)とカナダ鉱山会社のシェリット(Sherritt)はそれぞれ、世界最大のイルメナイト鉱山とニッケル鉱山をマダガスカル内に建設中だ。
 東部モラマンガ(Moramanga)の原始の森には、シェリットのブルドーザーが行き来する幅20メートルの「傷跡」が走り、原猿類の生息域を脅かしている。ニッケル鉱建設に40億ドル(約3940億円)が投資され、世界で5本の指に入る採掘プロジェクトだ。

 そのほかの大手企業も後れまじと、全土が北米のゴールドラッシュ再来の様子を呈し、マダガスカルの伝統的な社会を突如、大混乱させている。

■「インド洋のノアの箱舟」に大きな傷

 マダガスカル政府は2006年、シェリットのアンバトビィ・ニッケル・プロジェクト(Ambatovy Nickel Project)を承認した。2010年から27年間にわたり、ニッケル、コバルト、硫安を生産するという計画だ。

 だが地元の環境保護団体はこのプロジェクトによって、原生林1300-1700ヘクタールが破壊され、47の原産種を含む1378種の植物種が絶滅する可能性を指摘する。マダガスカルは、生物多様性が極めて豊富ゆえに「インド洋のノアの箱舟」と呼ばれている。 

 政府は、観光資源でもある生物多様性の保全と、積極的な鉱山開発の間には、適切なバランスが取れていると主張する。シェリット側はAFPの取材には応じなかったが、ウェブサイトでは「生物多様性を守りつつ、環境向上にまい進していく」と明言している。

■経済も変容、物価上昇、漁業にも大打撃

 鉱業の発展が環境に及ぼす影響に加え、新たな経済産業の効果を疑う声もある。

 つい最近まで風光明媚でのどかな街だった同国最南端のフォート・ドーファン(Fort-Dauphin)は、2005年にリオ・ティントが海上に大規模なイルメナイト採掘施設の建設を開始して以来、風景が一変した。3年間で人口は7万人に倍増し、古いコロニアル様式の建物が並ぶ景観を、派手な外観の新築ホテル群がさえぎるまでになった。

「鉱業が、交通網などのインフラの整備、ホテル産業の興隆などを街にもたらした」と地元当局は手放しの喜びようだが、国際非政府組織(NGO)「ケア・インターナショナル(CARE International)」の地元事務所は、「恩恵を受ける人はごく一部に限られるのではないか」と慎重だ。ある野党議員は「今のところ、プロジェクトが人々に富をもたらすことはなく、生活向上には結びついていない」と指摘する。

 同地で料理店を営む女性は、コメ、肉、野菜の物価が40%も上昇し、賃貸料はこの2年で3倍に跳ね上がったと嘆く。

 最も深刻な影響を受けているのは、漁師たちだ。フォート・ドーファンは、もともと、ロブスター漁が盛んな場所だ。ある漁師によると、かつては魚介類が豊富に獲れ、毎日漁に出ていたが、現在の出漁は週に2度だけだ。一部の漁師は政府から補償金を受け取っているが、それでも収入は減りつつあるという。(c)AFP/Lucie Peytermann