【8月4日 AFP】(一部修正)広島への原爆投下について、多くの米国人同様、スティーブン・リーパー(Steven Leeper)さん(60)も、かつては戦争終結のために不可欠だったと考えていた。

 しかし、今やリーパーさんは、広島平和文化センター(Hiroshima Peace Culture Foundation)の初の外国人理事長として、母国米国に向けて核兵器廃絶を訴えている。

■1冊の本で認識が180度逆転、「原爆は戦争犯罪」

「初めて広島を訪れた時、わたしは原爆のことなど考えもしませんでしたし、心配も、気に留めてもいませんでした」。AFPとのインタビューで、リーパーさんは語った。

「戦争で敵を殺すのは当然だし、原爆についても、敵を大量に殺すための大型爆弾のどこが問題なんだといった認識しかありませんでした」

 そんなリーパーさんの考えを180度変えたのは、被爆者らの苦しみを描いた「原爆の子」という1冊の本だった。この本を読んで、リーパーさんは初めて、原爆が落とされた側に与えた被害の大きさに想いが及ぶようになったという。「わたしも今では、原爆は完全に戦争犯罪だと考えています」

■「未来への警鐘のため」、米国で原爆展を開催

 リーパーさんは2007年、外国人として初めて、広島市から被爆体験を語り継ぐ役目を担う原爆記念資料館を管理する広島平和文化センター理事長に任命された。現在、米国50州101都市で「原爆展」を開催する運動を進めている。

 これに対する米国での反応はさまざまだという。70代以上の世代が未だに日本に対して割り切れない感情を持ち、日本の「戦争被害」について聞くのを嫌がる反面、若い世代には純粋に原爆の話にショックを受け、涙を流す人も多いという。また、同行した被爆者に対し、米国を代表して謝罪したり、何かできることはないかと尋ねる人もいるという。

 ただ、リーパーさんは「原爆展」が目指すものは、過去に対する贖罪(しょくざい)ではないと言う。

「訪問先ではまず、訪問の目的は過去を振り返ることでも、苦情を呈することでも、米国を責めることでもなく、人類の未来へ警鐘を鳴らすためだと強調しています」

■核のない世界への道筋示す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」

 リーパーさんは、核兵器の拡散防止だけでなく、核の廃絶というテーマが、米大統領選でもっと注目されることを望んでいる。

「核兵器は単なる兵器ではなく、われわれ人類を絶滅させる兵器なのです。われわれは核兵器、ひいては全ての戦争暴力をコントロールする方法を学ばなければなりません。それが広島のメッセージなのです」

 さらに先を見据えるリーパーさんは、地球温暖化問題の解決に向けた道筋を示した「京都議定書」にヒントを得て、核兵器廃絶の道筋を示す国際協定、「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を提唱。国連(UN)総会での採択を目指し、現在、広島などが中心となり各都市で署名を集めている。

「京都議定書について、誰もが環境によいことだと認識しているように、核のない世界への公約だと誰もが考える協定を作りたいのです」。リーパーさんは、2009年10月までに「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を国連に提出したいと話している。(c)AFP/Kyoko Hasegawa