【5月24日 AFP】長岡友久さん(75)はクジラに多くの借りがあるという。長い間、捕鯨船員として働き、何千頭ものクジラを殺してきた。そんな長岡さんは20年前、日本人の多くはクジラを食べるよりむしろ見るようになるだろうとの確信のもと、モリを双眼鏡に持ち替えた。

 「クジラはわたしの体の一部のようなものです」。四国のかつての捕鯨港で生まれ育った長岡さんは語る。「クジラは自然の恵みです」

 真っ黒に日焼けし、額には深いしわの刻まれた長岡さんは、船首にクジラが描かれた釣り船「末広丸2号」で観光客をホエール・ウォッチングに案内する。

 日本は年間約1000頭のクジラを捕獲し、欧米の環境保護論者たちの怒りを買っている。日本政府は、今月28日からアラスカで開催される国際捕鯨委員会の年次会合総会で再度、1986年に禁止された大型のクジラを対象とする商業捕鯨の全面再開を訴える予定だ。

 かつては同僚たちから捕鯨の才能を賞賛されていた長岡さんは、50代半ばで日本でのホエール・ウォッチング案内人のさきがけの1人となることを決心した。20年前の当時は、世界で捕鯨に対する規制が強化されつつあり、日本の主要な捕鯨業者は南極地域で捕鯨を続けていた。

 長岡さんは語る。「新たなメンバーと組んで捕鯨を続けることも考えた。大半の人よりクジラについては詳しいという自負があったから。でもホエール・ウォッチングが近いうちに日本でも始まると聞いて、それならやってみよう、と思ったのです」

 ホエール・ウォッチングに関する国の統計はない。小笠原ホエールウォッチング協会によると、クジラが遊ぶ姿が見られることで最も人気のある小笠原諸島には去年、約1万4700人の観光客がホエール・ウォッチングに訪れたという。8年前と比べても20%に増えた。

 一方で、ほぼ疑いのない傾向がある。日本人が以前ほどクジラ肉を食べなくなっているのだ。この事実はクジラ肉が日本の文化だとする日本政府の主張と矛盾する。

 年間1人当たりのクジラ肉消費量は30グラムまで落ち込んでいる。これはたった刺身1枚の量だ。商業捕鯨が一時的に停止される前の1980年には2.5キロだった。

 国際環境団体グリーンピース(Greenpeace)と日本政府の主張は平行線をたどっているが、ホエール・ウォッチングについては意見を共にする。

「公式見解ではないが、われわれは持続可能な方法で資源を利用する方法としてのホエール・ウォッチングは歓迎します」と水産庁捕鯨班の代表は話している。

 グリーンピース・ジャパンの担当者は「われわれは捕鯨の予算をホエール・ウォッチングの振興に向けるよう日本政府に提言した。ホエール・ウォッチングはまだうまく組織化されていないので」と言う。

 長岡さんは捕鯨業者が世界のクジラの個体数を減らしていることを認めている。特に、地球上で最大の動物、シロナガスクジラは現在、絶滅の危機に瀕している。それでも、日本には捕鯨の権利があると主張する。

 「捕獲しすぎはよくありません。わたしたちは1日に60頭ものシロナガスクジラを捕ったこともあった。船の処理能力を超えていて、60頭の中には腐ってしまったものもあった。ただ、日本人のように伝統的にクジラを魚のように食べてきた国民には、適正な範囲内での捕鯨を認めるべきです。人とクジラが共生できる道があるはずです」(c)AFP

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